イタリア日記2
●3月2日 ミラノ

朝、近くのカフェで、チョコレートクロワッサンとカプチーノの甘い甘い朝ごはんを食べた。石橋さんたち、今日はレコーディング。ミラノの高級マンションの一室にある、録音スタジオにおもむく。このスタジオが、びっくりするほど、居心地良い場所だった。まず、グランドピアノがある。それからいつでもエスプレッソの飲めるダイニングキッチン。おしゃれな照明とイスがあって、その横のくつろぎスペースにはふっかふかのソファ。そもそも、壁がオレンジ色。窓の外からはミラノのそよ風が……。
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レコーディング始まってしまって暇なので、観光に行くことにした。ミラノで観光するといったら、例の尖った飾りのいっぱいついた、大聖堂(ドゥオモ)、あれしかない。地図を片手に、ドゥオモ目指して歩いた。二十分くらいで到着。
ドゥオモの内部を見学し、それからエレベータで屋上にも登ってみた。大理石が雨に濡れて、ちょっと滑った。日本人観光客の男子集団が、「ちょう高けえ!ちょうこええ!」とびびりまくっている。欧米人観光客の母娘が、「お母さん、これ以上登れないから、あんただけ先行きなさい!」「ええ~、せっかく来たんだからいっしょに登ろうよ」と押し問答している。屋上から見たミラノの空は、少し曇っていて、きれいでも、汚くもなかった。
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シャンプーがなくなってたので、ドゥオモ広場に隣接したデパートで、高いのを買ってみた。Kiehl'sのココナッツの匂いのシャンプーとリンス。広場のまわりには、お店がいっぱいある。もっといろいろ見て回りたかったけど、ジャンニたちとお昼を食べる約束の時間が近づいてきていたので、焦ってスタジオに戻った。

みんなで昼食休憩。スタジオ近くのレストランで、「ポモドーロ」のパスタを食べた。ポモドーロってトマトの味のことみたい。ペンネにひたすらトマトソースがぶっかかっている、単純な味のパスタ。正直、小麦粉小麦粉の連続攻撃に飽きがきていたので、チキンと生野菜のサラダもあとから注文した。
私、本当は、ひとりで知らない街を歩くのが心細かったので、皆の顔が見れてハシャいでいた。いっぽう、石橋さんはやや神妙な顔つき。きっと、レコーディングのことで頭がいっぱいなのだろう。「どうだった」と尋ねると、「いやあ、半分くらい、サウンドチェックかと思ってたら、録音してたんだよね~。ま、いっか!」とおっしゃるので、ずっこけた。
「でも、すばらしかったよ。ジャンニはやっぱりすごいし、ダニエレのベースは、特別。ああいう人は他にいない……」
石橋さん、夢中で話してくれた。ガス入りの水と、エスプレッソも飲んで、大満足でまたスタジオに戻った。

レコーディングで歌入れしたという詞を、読ませてもらった。瞬間と永遠、有限と無限、過ぎ去った春の日についての、美しい歌詞だった。

夕方五時くらいに、またスタジオを出て、散歩に出かけた。イタリア大通りを歩いて、ドゥオモ広場へ。ボディショップを発見したから、バラの匂いのボディシャンプーとスポンジを買った。靴のかかとが破けてきてたので、靴も買った。物欲がわいてきて、服屋を回ってたら、夜遅くなってきたので、急いでまた皆のところに戻った。

夜、スタジオの人たちと、近くのレストランへ。
壁がクリーム色で天井の丸い、感じのよいレストランだった。ピンクと黒のものすごい派手なセーターを着たお店のおばちゃんが、くるくる働きながら、だみ声でしゃべりまくっていた。それに対し、イタリア人男子たちが、なんだか微妙な表情で笑っているので、どうしたのかと思ったら、「彼女のミラノ訛りがものすごすぎて、誰も、何言ってるのかさっぱりわからないんだ」と、ジャンニ。スタジオのエンジニアさんなんか、ミラノ在住なのに、それでも全然わからないのだそうだ。
ゴルゴンゾーラとピスタチオのパスタを食べた。たぶんすごい美味しいのだと思うけど、小麦粉小麦粉の連続攻撃に胃が負けていて、あんまりたくさん入らない。イタリア人男子たちは、「これだよ、この味だよ!」と盛り上がっているようで、肉や魚も注文し、食べまくっている。悔しいが、いたしかたないのだった。

「あとは、シャワーのお湯が出さえすれば、今日はもう何もいりません」
ホテルへの帰り道で、石橋さんが天に祈った。すると、お湯が出るじゃないか。私が先に風呂に入り、次に石橋さんにバトンタッチすると、なんと、その後はもう水しか出なかったらしい。字義通りとれば、願いは叶ったとも言えるわけで、どうして天はこういう意地悪をよくするのだろう。私は悲しかった。それに、申し訳なかった。なのにこの日も、のび太みたいにグーグー眠ってしまった。



●3月3日 ミラノ

朝9時ごろ起きて、ホテルのカフェテリアでコーンフレークやクロワッサンを食べる。昼過ぎまで時間があったので、ゆっくり準備をしてから、散歩をした。スフォルツア城の城壁の前を通り、噴水なんかを見た。ショーウィンドウのジェラートに心惹かれて、大きなカフェに入る。
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私はジェラート三種盛り合わせみたいなのを注文し、石橋さんはクレープ。全部食べられないけど、夢みたいにカラフルで大きいデザート。

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それから、ドゥオモに行って、内部をちょっと見学した。ステンドグラスが美しい。くぐもった光が中空で交錯している。足下のタイルには花の模様。
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ドゥオモ広場から、またスタジオに向かう。途中の洋服屋で買い物した後、2時からスタジオでミックス作業が始まった。私は日本からのメールをチェックした。
レコーディングした曲のタイトルや、アルバム名を決めなくてはならない、という話になる。石橋さんが、以前ライブをしたという富山のお寺の掛軸に書かれていた、ある言葉を思い出して、教えてくれた。ネットで検索したら、それは仏教用語であり、「幻の中の真実」、それから「真実の中の幻」、同時にふたつの意味がある言葉らしい、とわかった。何かのタイトルに良いかもしれない。
「こんなに毎日、いろんなところにいって……見るものすべてが、幻のよう。本当は、私たちはすでに死んでしまっていて、魂だけでこの世をふらふら漂っているんじゃないか、という気がしてならない」
旅の間、石橋さんは、何度かそう話してくれた。

五時ぐらいから、また一人でミラノの散歩に出た。
どうしても醤油味が恋しくなって、ドゥオモのとなりのデパートの最上階の、回転寿司屋に入ってしまった。醤油、酢、米、そしてアサヒスーパードライ。
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心ひかれるネタは、サーモンとアボガドロールくらいしかなかったけど、四皿くらいたいらげたら、言いようのない喜びがこみあげてきた。ビールを飲み干してフハーッと息をつくと、テンションがどんどんあがってきた。八十年代パンクの物すごい髪型をした女の子がお会計してくれた。その髪型、日本のデパートだったら絶対バイトできないよ!
エスカレータを降りながら、「高い服ばっか売りやがって、デパートめ」と、誰もかれもにかみつきたいような楽しい気分になり、へらへら笑えてしょうがなかった。
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広場前のH&Mで試着しまくって服買った。トゥルルル〜とか歌いながら歩いてたら、地元民らしく見えたのだろうか? まさか! ありえないことに、イタリア人女性から道をたずねられた。しかも二人も。何考えてんだ、イタリア人。誰にでも聞けばいいってもんじゃないぜ。

スタジオに戻ったら、まだミックス作業中。
イヴァンというミュージシャンの男の子が遊びに来ていた。
ジャンニの紹介によると、「イヴァンは、イタリアじゃ有名なシンガーソングライターで、女の子にものすごく人気あるんだよ。彼のコンサートに行くと、女の子たちが『キャー♡イ・ヴァーン!!』って大歓声をあげるんだ、フッフッフ」とのこと。

夜、イヴァン含め、6、7人でレストランへ。どうやらアヒルをテーマにした店らしく、アヒルの置物や絵がたくさん飾ってある。ダニエレはサーモンパスタ、石橋さんはポルチーニのリゾット、私はスープパスタを食べた。イヴァンが頼んだモッツアレラチーズが来ると、みんなが「これは絶対日本にはない味だから、ちょっとだけ食べてみな!」と勧めてくれた。一口食べると、アラ〜、まるでケーキみたい。生クリームみたいにふわっとお口でとろける。

イタリア人たち、ものすごい早口でまたペラクチャと話をしている。
どういう流れだか、イヴァンの目の色がきれいなブルーだということが話題に上っていた。
「うちの小さい娘がね、僕の膝に乗って、顔をじっと見て、『パパの目の中に海があるわ!』っていうんだ」
イヴァン、さりげなく娘を自慢。っていうか、イケメンである上に、ピュアハートでもあるのだ、これは女の子に人気が出るはずだ。

その後、どういう流れだか、血液型の話になっていた。
「日本人は、血液型で性格がわかるって信じてるって、本当?」
とたずねられ、私たちが「そう思ってる人は多い」と答えると、全員、なんとげらげらと大爆笑!「まさか〜」、「血液型って何?」、「僕、日本に行ったとき、何度も血液型を聞かれたよ。女の子とか、必ず聞くの」「ありえねー!」。

しかし、その後どういう流れだか、星座占いの話になる。「ユウコ、誕生日は? ああ、それなら乙女座だね。乙女座の性格は……」と、ジャンニ、大真面目で語る。どっちもどっちじゃないか!もう、おかしくておかしくて、しかたがなかった。

レストランを出て、タクシーを待っていると、花売りの男の人がやってきた。「おねがい、ひとつだけでいいから買ってよ」という彼に対し、みんな迷惑そうに「要らないよ」と言いつつも、ちょっとだけ小銭をあげたり、あんまり関係なさそうな雑談をぺらぺらしたりしてる。それが私にはなんだかとってもおもしろく見えた。この翌日も、ジャンニは道ばたで傘を売りつけに来た人に、駅への道をたずねていたし、みんな、本当に誰とでも、どんどんしゃべるのだな。
タクシーがやってきて、走り出したかと思ったら、すぐにホテルについてしまった。ミラノの町、狭いんだか、広いんだか、よくわからない。

石橋さんが「やっとお風呂のお湯の出し方を発見した。別室にスイッチがあるから、それを操作すればいいのよ!」と言う。
心おきなくお風呂に入り、いろんな話をして、寝た。

http://www.youtube.com/watch?v=rKVUMLTwVq0&feature=related
↑人気歌手「イ・ヴァーン♡」のTV出演映像。甘い歌声、素敵すぎます。ベースを弾いているのが、われらがダニエレ。



●3月4日 ミラノ→ベネツィア

荷物をまとめて、タクシーに乗り、駅へ向かう。今日は、電車でベネツィアに行くのだ。小雨が降っていた。しかし、その前に、ずっといっしょだったベース奏者のダニエレとお別れしなくてはならない。自由自在にすごい音を出すダニエレ。いつも目がキラキラしているダニエレ。優しくて話しやすいダニエレ。順番に抱き合って別れを惜しんだ。ダニエレ、きりっと通る声で「Thank you for beautiful experience!」と言って、片手を上げる。思わず涙ぐむ。

実はこの日、ベネツィアでライブがあるはずだった。だが予定していたライブハウスで前日に軽い不祥事があったか何かの理由で、ライブは中止になってしまったらしい。
「でも、ホテルをとってあるから、一応ベネツィアにいって、ちょっと観光して、あしたローマに向かおう」
とジャンニ。ちなみに「あんまり眠れなくって、体調悪いんだよね……」とのこと。

ミラノ中央駅に到着。ハムととトマトとサラダ菜の入ったサンドウィッチを買い、五番線からユーロスターに乗る。
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「ベネツィアは、本当に美しいんだよ。久しぶりで行くんだ。ああ、楽しみ……」
とジャンニが言ってるとき、電車が走り出した……かと思ったら、五分もしないうちに車庫の立ち並ぶ場所で、一時停止した。
「オオ、ここがベネツィアかあ!」
「まあ、きれい!あれが寺院ね!」
とみんなでひとしきり小芝居を打って、楽しんだ。

車内でお菓子を食べていたら、「僕、手相見れるよ」とジャンニが突然言った。じゃあ見てもらおうか、と私が手を出したら、「なんだこの手!?」と驚かれる。
「こんなの初めて見たよ。これは、ヨーロッパ人の間では、『猿の手』って言われてる珍しい手相だ」
私の手には、横に一本、太いまっすぐな線がある。日本の雑誌とか見ると、ますかけ線と書いてあるやつだ。
「モンキーハンドは、天才の手相なんだよ。天才か、犯罪者か、紙一重ともいわれる」
「じゃあ、私は天才の猿、ジーニアス・モンキーね。キーキー」
と言うと、ジャンニは笑い出し、「いやあ、珍しい」と大喜びだった。同じ手相の人、私のまわりにはけっこういるけどなあ。

四、五時間後、ミルキー・グリーンの海が見えてくる。青緑といったらいいのか、水色、黄緑色といったらいいのか、よくわからない不思議な色。
「ベネツィアだ。たぶん、このあたりのラグーンが特殊だから、こんな色になるんだと思う。これは、日本語では何色っていうの?」
とジャンニにたずねられ、私たちは答えられない。
「うぐいす色とも違うし……きっと近い色の名前があると思うけど……」。

ベネツィア駅を出て、雨の降る中、地図を見ながらホテルに向かう。傘を差しながら、重いスーツケースを引っ張りつつ、石畳の道を歩くのは、けっこう大変だった。水路の横を延々と歩き、階段を上り下りし、ホテルにたどりつく。路地の奥の一画に、ブロンズ像のライオンが二頭いて、そこが入り口だった。

三人でいっぺんに泊まれる、大きい部屋が空いているというので、そちらに変えてもらう。
「三人で同じ部屋に泊まったなんて……日本のみんなには内緒だよ」
とジャンニ、すきあらば的にギャグをかまして、ウィンク。
Tiziano、と札のついたドアを開けると、そこには広々とした素晴らしい部屋が……!中央には、ティッツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」の絵がかけられ、その下には豪華なダブルベッドがすえられている。そして部屋のはじっこに、二つのシングルベッド……。

「僕は、このちょっとした仕切りの向こうにあるシングルに寝るよ」
とジャンニ。「じゃあ、私はこっちのシングルに寝る」と石橋さん。「いやいや、石橋さん疲れてるだろうから、ダブルベッドに寝てよ」と私が言うと、「ちぎちゃんは本を書いたりしてるんだから、こういうときにおいしいところを持ってってくれないと」と石橋さん、よくわからない理屈をこねる。結局、私が偉そうなダブルベッドに一人で寝ることになった。

窓を開けて煙草を吸っていると、灰色の縞の猫が、雨をしのいで部屋の中に入ってきた。うちで飼っている猫と同じ柄だ。思わず撫でる。しかし、同じく猫を飼っているというジャンニ、のら猫には厳しいようで、「オウ、バッド・ネコ……」と眉をしかめた。猫を抱えて外に出したが、何回も戻ってくる。叱って、窓をしっかり閉めた。

散歩に出る。水上バスに乗った。
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「運河があって、昔の町があって、歓楽街があって……でっかい浅草みたいな感じかもね」と石橋さんが言う。でっかい浅草、と思うと、見るものすべてが珍しくて手に負えないベネツィアも、なんだか把握しやすくなるような気がする。
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すごい雨が降っていて、足がすっかり濡れてしまう。バスを降りて、おみやげ品の店で賑わう通りを歩いた。このみやげもので満ち溢れてる感じも、そういえばちょっと浅草っぽい。石橋さん、仲良しの友達へのおみやげを買っていた。ジャンニ、ベネツイアングラスでできた虫眼鏡を買っていた。

カフェに入り、白ワインとりんごのタルトを注文。おしゃべりしていると、黒い髭で顔中おおわれた青年がやってきた。楽器を持っている。ジャンニの知りあいらしい。「紹介するよ。彼が、今日やるはずだった僕らのライブの、オーガナイザー」。「ライブ、中止になっちゃって、ほんまにすみません……」と青年、平謝りしている。
「ちなみに、彼の名前はめちゃくちゃ珍しいんだよ」、「なんて名前なの?」、「ピエーロ・ヴィットロ・ボン」。どうおかしいのかイマイチわからないのだが、ジャンニは言いながら、大ウケしている。ちなみに、ピエーロはサックス奏者らしく、「新しいサックス買ったんだ……ヴィンテージなんだ……」と、ジャンニに見せていた。

彼はベネツィア在住だったが、最近、別の町に引越したということだった。「ベネツィアは町が美しすぎて、住んでると憂鬱になる。あと、物価が高すぎ」。美しい町が、必ずしも住むのに適しているというわけではないようだった。「ベネツィアには車がなくて、移動は全部船だからね。見渡す限り水だし。イタリア人は、ベネツィアが好きだけど、決してベネツィアに住みたいわけじゃないの」とジャンニ。

ピエーロの友達の、パット・フェロというカメラマンの女の子も現れ、彼らの案内で、レストランに連れていってもらった。「ベネツィアには観光客向けの高価な店も多いんだけど、地元民がよく利用する安くて美味しい店も、裏通りにはあるんだ」とのこと。出会う人みなが、とにかく親切すぎる。
屋根のある路地裏は、昔行ったモロッコのスークにもちょっと似てた。若者がお店の前にたむろして、ワインを立ち飲みしている。目的の店が混んでいるので、近くのワインバーでちょっとだけ待った。
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何かの拍子に私が、「ピエーロ・ヴィットロ・ボン」と言うと、「きみの発音は、イタリア人よりよっぽど上手だよ!デジカメで動画とるからもう一回言って!」と頼まれた。カメラの前で名前を言ったら、みんなウケていた。そんなにへんな名前なのかな。「私の名字も、チギラっていって、変わってるから、気持ちよくわかるよ」と言ったら、「つらいよね。お互い……」と肩をすくめるピエーロ。いい人だ。パット・フェロが一眼レフで私たちの写真を撮ってくれた。

レストランで、ベネツィアの郷土料理を食べた。ショウケースに並べられた前菜を見て、私と石橋さんのテンションが一気に上がった。セロリとタコのマリネ、小エビとアボガドのサラダ、オイルサーディン……魚だ〜!
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「日本人は魚介類を見ると、テンションが上がるんだね」と、ささやきあう、イタリア人たち。
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前菜の盛り合わせを出してもらった。美味しかった。食べたことのない珍しい料理もいくつかあった。白身魚をこねて作られたという、真っ白なミルクっぽい味の前菜に、「味足りないなあ」と調味料をかけようとしたら、「ノー!ノー!」とピエーロに止められる。これはこういうものらしい。小麦粉をこねたお好み焼きっぽい前菜もあった。「イタリア人は、何かを捏ねたり、練ったりする料理が好きだねえ」と、日本人たち、こっそり言い合う。
めちゃくちゃ美味しかったけど、オリーブオイルに胃が負けて、今回もそんなには食べられなかった。他の人が頼んだ、アンチョビとタマネギのパスタや、魚の卵やイカやホタテ貝の入った豪華なパスタをちょっとだけもらう。これもすばらしくおいしかった。

食後に、クッキーをデザートワインに浸して食べた。私はデザートワインが好きだ。甘くておいしくて、ハー、幸せだ。
「他にもデザートはいかがですか?ティラミスとかありますけど」
ウェイターさんにそう言われた瞬間の、ジャンニの表情が、みものだった。「ハッ!」と胸を突かれたような、落雷に打たれたような、まるで恋に落ちてしまったような顔をしたのだ。大好物だそうです。
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ティラミスが運ばれてきて、ジャンニ、うれしそうに教えてくれた。
「ティラミスの意味って知ってる?」
「知らない」
「イタリア語でね、ティラは『引っ張る』という意味なの。で、スは『上に』っていう意味なの。だから、気分を上に引っ張り上げるっていう意味なわけ」
「ティラミ・スは、つまり、食べればテンションが上がりまくるお菓子ってことか」
「そう、ティラミ・スー!なんだよね」。
ジャンニが、「スー!」を、裏声になるほど高い音程で叫んだので、私たちげらげら笑った。
「ちなみに、『下に』のことはジュ、っていうんだよ」
「じゃあ、『ティラミ・ジュ〜』って言ったら……」
「うん、テンション下がりまくりっていう意味」。
私たちは、それから何度も酔いにまかせて「ティラミ・スー!」「ティラミ・ジュ〜……」と言って遊んだ。

深夜にレストランを出る。夜のベネツィアの美しい小径で、パットやピエーロ、ピエーロの彼女と順番に抱き合ってお別れ。歩いてホテルまで帰る。行きは水上バスで時間がかかったが、歩くとけっこう近かった。

この夜、とってもティラミ・ジュ〜……な事態が巻き起こってしまった。ジャンニが腹痛を起こし、全然眠れなくなってしまったのだ。ティラミスの食べ過ぎ……というのももちろんあるだろうが、彼はひどい風邪を引きかけおり、石橋さんが夜中に起きて、キヨーレオピンなどをあげて、看病をしてあげたという。しかし私はその間も全然気がつかず、相変わらずのび太のように、しかもでっかいダブルベッドで、ぐっすりと寝ていたのだった!おそるべし、だ。

翌日ホテルを出た後、ジャンニは声をひそめて教えてくれた。
「昨日、本当に怖かったんだよ」
「眠れなかったんでしょう? 大変だったね、だいじょうぶ?」
「いや、それだけじゃなくてね……壁のところに悪魔の影がうつるのが見えた!あのホテルにはなんかいたかも……」
なるほどー!悪魔かあ! 西洋と東洋のオバケ観の違いに、私が新鮮な驚きを隠し得ないでいると、ジャンニはさらに続けて言った。
「友達に、すぐにオバケを見ちゃう男がいるんだ。彼とはたぶん、ツアー最終目的地、カターニャで会えると思うよ」

つづく
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by chigirayuko | 2009-02-26 03:24 | 2009年イタリア日記
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千木良悠子の日記です。
by chigirayuko
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