表現と主題
 今日はマジメなことを考えてみようと思います。
 今、9月にやった「パーフェクト奥様」のサントラを聴いています。
 私はこの作品で何をやりたかったんだろうか…。
 最近たまに「千木良さんの作品のテーマはなんなの?」と人から聞かれます。ファスビンダーの公演のときも、「なぜファスビンダーをやろうと思ったの? なぜナチ問題の出てくる戯曲を取り上げたの? 必然性は?」等、聞かれました。「いや〜、ファスビンダー、なんかスゴいなあと思って…」と、アホ丸出しの返答をしてしまい、やや後悔…。ファシストはいつの時代もいるし、政治の動向なんか見ても時節に合ってるっぽいよなあ…とは思っていましたが、そんなことエラソーに語れるだけの専門知識もないし柄じゃないので、笑ってごまかしといた。
 お芝居を作るのはけっこう大変なのに、「何がやりたかったの?」と聞かれるとうまい答えが出てこない。真摯に向き合ってるつもりだし、技術は及ばずとも、妥協している気はさらさらない。なのに、なんで主題について質問されて笑ってごまかさなきゃいけないのかなあ。何か負い目があるのでしょうか? 作品を見せることで伝わらなかったのが、悔しいのだろうか。でも別に見た人全員に同じことが伝わらなくたって、私、良いと思ってるし。
 もしかしたら、問題は、私の作家としての自意識にあるのかもしれません。
 見た人はきっと説明が欲しいんですよね。作品には作家がいて、その人が自分の伝えたい主題を観客に手渡してくれる、と信じたい。でも私は、「個人とか作者なんて近代の生んだ一時的な概念で、まやかしでしょ〜?」などと、いっぱしぶったことをどっかで思っていて、作家として扱われるのがどうもくすぐったくて、つい逃げてしまうフシがあるのかも。単にシャイなのかもしれないし。
 でも別に近代に恨みがあるわけじゃないしね。頭でっかちに考えるのやめて、もう少し主題押し出していこうかな。前近代にご恩があるわけじゃないし。
 
 私が「パーフェクト奥様」でやりたかったことは、本当に小さな、個人的なこと、「下北の小さな部屋から世界に向かって愛を叫ぶ」、ということで、愛って言っても夫婦愛とか男女の愛とかに限らず、全然知らない人とか場所とか太陽とか道路とか、今この瞬間に存在してるすべてに対する、同胞としてのそこはかとない親しみの感情、それを愛と呼ぶのかは知らないですが、小さな情を大きな海になるまで集めて、下北の小さな部屋に満たしたかったわけです。
 主演の松本さんは私にとって、全然分からない人だったのです。いろいろ話を聞いたけど、どうもよく分からない。関係があるような、ないような、不思議な間柄の人。もしかして作品にすれば分かるだろうか?と思って、脚本をあて書きして、主役を演じてもらったけれど、やはりよく分からなかった。でも、それでも、あの舞台の間、松本さんは奥様役に自己を投入して、見事に演じ切った。私の欲望は果てしなくて、私を理解できない人にも、私のことを愛してほしい。それは無理だって話もあるかもしれないけれど、舞台の上でなら、可能かもしれない。だって舞台はライブだから。同じ時間を生きることができれば、生半可な理解なんて不要かもしれない。私は時間という人類の便利な発明品に、妄信的な期待をしていたのかもしれません。

 けっきょく、時間というものはあると思えばそこにあり、ないと思えば消えてしまう、ただの生活のための道具で、「パーフェクト奥様」の登場人物たちは、虚空に向かって絶望的な愛を叫んだだけだったのかもしれない。今この瞬間を共有する、なんて子供じみたイメージに期待をするのはバカげたことです。それでもいいんじゃないかなと私は思う。私は愚かな自分を、少し人に見てもらいたい。落胆されても、笑われてもいいから、子供じみた夢を抱いていたことを、人に覚えていてほしい。
 私は幼稚園を卒業したくない子供で、卒園式で一人だけボロボロ泣いていて、今日を境にはなればなれにさせられるだけなのに、どうして他の園児は全員ニコニコして、意気揚々と「早く小学生になりたい〜!」だなんて宣言できるんだろうと、それが本当に分からなかった。
 そういう恨みが、「パーフェクト奥様」には籠っているのかもしれません。

 こうやって書いていくと、自分がひどく近代的な作家像を志向しているみたいに思えてくるけど、前言は翻すためにあるという言葉もあるし、それでも構わない。昔好きだった人は、「『やっぱり〜する』という言葉は俺の辞書にはない」って言ってたけど、私の辞書にはあるでいいや。「表現と主題」というテーマで書いてみました。



[PR]
by chigirayuko | 2013-12-05 18:58
<< お正月 紀伊國屋ホール公演「ゴミ、都市... >>



千木良悠子の日記です。
by chigirayuko
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30