2009年 02月 11日 ( 1 )
家出の終わり (09/2/13)
昼過ぎ、Nさんの家を出る。車で送ってもらって駅へ。湘南新宿ラインに乗って、はじっこのほうの席に座って眠った。シルバーシートだけどまあいいやと思った。起きて気がつくと、電車はめちゃくちゃ混雑していた。そして、目の前にはたくさんのお年寄りがずらり。
やばい。この中の誰に席を譲ってもひいきになってしまう・・・。
私よりふたつとなりに座っているおじいさんが、目の前の、戦争体験もありそうな、腰の曲がったおばあさんに席を譲ろうとして、そでを引っ張ってらっしゃる。しかし、おばあさん気付かない。私、緊張して手に汗を握った。
「ここでおじいさんがおばあさんに席を譲ってしまったら、私のレディとしてのメンツが立たない・・・」
私のいちばん目の前にいる男性二人組は、見た目、せいぜい60代。楽しそうに談笑している。この方々にお譲りするよりは、はじっこのおばあさんに譲りたい。でも、私のところからおばあさんまでの距離は遠い。どうする!?家出体験のおかげで、だいぶオープンマインドになっているはず。「席どうぞ」とか、いつでも言えるはず・・・。
でも無理だった。
考えすぎてわけがわからなくなり、私は赤羽の駅でいったん電車を降りて、違う車両に乗り換えた。私の立った席には、元気そうなおじいさん二人組がニコニコ談笑しながら、座ってしまった。腰の曲がったおばあさんは、相変わらず立ったまま手すりにつかまって、ふるえていた。

渋谷で電車を降りて、バスに乗った。駅でTHE BIG ISSUEを売っているお年寄りに、若いカップルがお茶のペットボトルを差し入れしているのを見た。私にも、BIG ISSUEを売る仕事、できるだろうかと考えた。外にずっと立っているのは、寒いだろうな。ああ、だからカップルは、あったかいお茶のペットボトルをあげてたんだ。私、ぜんぜん気づかなかった。みんなやさしいんだな・・・。

バイトに行って、考えた。もうあと一日くらい家出したい。行き場所がなくて、外でひとりでぷらぷらしているのが、今の自分にはいちばん似合ってる気がする。
家出の最中で書いたメモ帳を読み返した。
「つみもばつも、正義も悪も、両方等価である世界では、公正さなど偏見の一種でしかないのだ。私は自分の心の平安のために他人に公正さを要求するなどという、せせこましい小市民的な真似はもうやめなくてはならない」
「体が不自由であっても、お金なくっても、心は拘束されてはいないのだ。人間は自由な存在なのだ。世に貧困や悪がはびこることと、そこにいて自由を夢見ることは決して矛盾しないのだ」
話がでかいなあ・・・。
いまとなってはよく意味がわからないけど、どうやら、街をふらふらすることで、自由を夢見たかったようだ。

10時でバイト終わり。宿泊先、思い当たらない。最後の日なのでマンガ喫茶でも行こうかと思う。下北沢の、知り合いの幼馴染さんがやっている、カフェ「気流舎」に電気がついていたので、入ってマスターとお話した。店、十一時で終わりだったらしく、マスター帰り支度していた。だが、快くワインを出してくださった。
私が「家出してるんです、もう一日くらい続けたい」というと、「家があるんなら、帰ったらどうですか?」と言われた。「でも、なんとなく今日までは続けたいと思ってて・・・」「ハハハ、誰もそんなこと気にしないと思いますよ。ところで、もうすぐ新刊出されるんでしょう? うちでトークイベントやりませんか」、「あ、やりたいです」。赤ワインを飲んで話しているうちに、「あ、そうだ家帰ってやらなきゃいけないことあるや・・・」という気分になった。「私、かえりますわ」、「ええ、それがいいですよ」。酔った勢いもあって、ぐいぐい家に向かって歩いた。

12時頃、家に帰った。探し物をしていたら、母親が寝室から出てきて、
「今夜は家にいるの? またどっか行くの? もうどこへも行かないで・・・」
と、彼氏にひどいめにあってる彼女みたいなことを言うので、辟易した。
押入れの奥から、過去の恥ずかしい書類(昔書いた原稿など)が発掘されて、穴があったら入りたいような気持ちになった。私は、家出をして、彷徨して、「過去のない女」になりたかったのかもしれない。でも、あるものをないことにはできない。お風呂に入って、自分のベッドで寝た。別に感慨はなかった。

翌日、二時半から青山のヨックモックで、編集者さんと辛酸なめ子さんと待ち合わせ。
新しい本ができあがったので、いただいてきた。
なめ子さん、相変わらず楚々として可愛らしく、お会いできてうれしかった。
ヨックモックのバレンタイン仕様のチョコレートケーキを(私だけ)食べさせていただいた!
ふわふわして、あんまり上手にみなさんとしゃべれなかった。

その日もやっぱり、普通に家に帰って寝た。別に、今までとかわるところはなかった。
またどこか行きたいと思うけど、いつでも行けると思うから、しばらくは家にいるかもしれない。でも、やっぱりどこか行きたいな。
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by chigirayuko | 2009-02-11 00:00



千木良悠子の日記です。
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