2009年 02月 14日 ( 1 )
8日目(09/2/9)
昼過ぎごろ、Rちゃんのベッドから抜け出して、芋虫のように無心で台所に這ってゆき、昨日置いてってくれたブルーベリー・マフィン食べる。
紅茶飲む。緑茶飲む。

鶯谷のSちゃんにメール。今日泊まりにいってもいいかと尋ねると、「男三人来て、むさ苦しい飲み会をしているかもしれないけど、よかったらどうぞ」とのこと。

洋服がすでに汗くさくなってしまった気がするので、実家の近所だったこともあって、帰ってまた着替えをした。メールチェックなど。母親が「どこ行ってたの、これからどこ行くの」と心配そうに聞くので、適当に答えて、再び家を出る。

コンビニでお金をおろしたら、残高が全然ないことに気づき、「日払いのバイトをしなくちゃ」と思う。求人広告で見たキャバクラに電話かけてみる。これから面接してくれるとのこと。
初台駅で下車、駅前の中華料理屋で坦々麺を食べながら、時間つぶす。テレビで「志村どうぶつ園」をやっている。お猿たちが高いところに吊るされたバナナをどうやって手に入れるか、必死で試行錯誤している。私もいま、バナナを欲しがるお猿のようなものだ。でも、よく考えたらキャバクラなんて怖い。超びびって、やっぱりやめたいと思う。

8時半に、教えてもらった雑居ビルの一室に赴くと、そこはかなり気合の入ったキャバクラだった。まず音楽が怖い。強迫的なロックで、来る者の不安と焦りを募らせる。お客さんはみんな茶髪で、ジャージみたいな太いズボンを履いてて、喧嘩が強そう。なんのお仕事してるんだろ。女の子たちは胸のガバッと空いた赤やら青のドレスを着て、お店の奥でお化粧直し中。
黒い制服の男性がやってきて、面接してくれた。
丁寧に時給制度について説明を受ける。広告には時給三千円と書いてあったけど、はじめは二千円スタートらしい。指名がつくとポイントアップして、時給が上がるらしい。さらに日払いをしてもらえるのは、時給千円分だけで、残りは翌月払いになるとのこと。月六回以上働かないと、さらに翌々月に支払いが延びてしまうらしい。がっつり客を捕まえないと、ぜんぜんお金がもらえない仕組みになっているのだ。
男性は、数秒に一回営業スマイルをするのだが、それがハンで押したように同じ顔で、デビッド・リンチの映画みたいで怖い。夢に見そう。目の周りにきゅっと一瞬だけ皺が寄るのだ。そんなの、笑顔じゃないよと思う。
ドレスを貸してあげますが、「体験入店」をしていきますか、と尋ねられ、ちょっとやってみようかなと思ったが、「時給千円分しかもらえないんですか」と聞くと、「そうだ」という。二時間半で2500円もらえるというのだが、そうなると、後の千円分の時給は何処へ行くの?チーズはどこへ消えるの?わけがわからなくなって、「いいです」と言って店を出てきた。面接に合格してたら電話かかってくると言われたが、おそらくかかってこないだろう。

早足で地下鉄に乗って、鶯谷のSちゃんちを目指した。すごくドキドキしていた。怖かったよ。とにかく、音楽が怖かった。でも、あの胸も背中も空いた安ピカドレスはちょっとだけ着てみたかったなと思う。きっと似合ったと思うのです。

お金の話ってシビアーだな。私は歩きながら、「やっぱり、おいしくて栄養のあるものが食べたい」、「大きくて気持ちいいベッドで寝たい」、などとたくさん、考えた。自分の選択肢がぐっと狭まった気がした。ふだんはあんまり意識しない普通の欲が自分の中にもたっぷりあって、それが、不安な思いをしたことをきっかけにわーっと噴き出してくるようだった。「やる気になれば人間、たいていのことはできる」などと思っていたが、ぜんぜんだめじゃん。
今まで、「貧しい者も富める者も平等である」、「博愛の精神を持たねばならない」などと当然のごとく考えていたけど、お金にまつわる欲は人を疑い深くするのだ。私は落ち着かなくなり、混乱してしまった。脱力し、手持ち無沙汰になって、「泥棒日記」を開いて電車の中で読もうとしたけど、恐ろしくて読めなかった。
私の今やってる家出は、シンプル。よく考えたら、小ずるく見極めて、親切にしてくれる人んとこばっかり行ってる。でも、ジュネの流浪生活は、犯罪と貧困が友達。彼のふだん暮らす「重力の大きい、天王星の世界」というのが、どれだけ複雑で疲れるものなのだろうかと思いを馳せたら、それだけで気分が悪くなりそうだった。

鶯谷のSちゃんの家に着いた。
彼女の飲み仲間の男子が三人いて、熱燗を飲んで床に寝転がっていた。
私が挨拶すると、お酒をあたためてくれた。コンビニに行くというので、おにぎりを買ってきてください、と五百円渡したら「家出中なんでしょう?いいよいいよ」とおごってくれた。
生後半年のまだ小さい猫がやってきて、ひざの上にのった。こんなに人懐こい猫は初めてだ。猫の名前は「モミジ」というんですよ、とSちゃんが教えてくれた。
男子のうちのひとりが「眉毛が長い」とみなにダメ出しされ、眉毛カットをされていた。もう一人の男子は「僕はおっぱい星人ですが、何が悪いんですか!?」と言い始め、それに対し、残り一人の男子が「女性をおっぱいだけで見てはいかん!心と心がつながるおつきあいをしたことはないのか!」と、年長者らしいお説教を食らわせていた。平和だなあ。

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by chigirayuko | 2009-02-14 00:08



千木良悠子の日記です。
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